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「ばあちゃんが作ってくれた餅と、同じ味だ!」

 温かく、懐かしい味がするごろくファームの切り餅は、南相馬の暮らしの中で受け継がれてきた記憶から生まれています。

手がけるのは、南相馬市で九代続く米農家「ごろくファーム」の荒淳子さん。義母が台所で餅をついていた姿を思い出しながら、地域の味を紡いできました。

この切り餅が生まれた背景や、餅づくりに込めた思い、そして地域の暮らしとともに育まれてきた味について、淳子さんに話を聞きました。

暮らしの中から生まれた、餅づくり

南相馬市で代々田んぼを守り続けてきた米農家「ごろくファーム」。

米づくりを家業として受け継ぎながら、この土地の気候や土壌と向き合い、一年一年、大切に稲を育ててきました。安全かつ効率的に持続可能な農業を行うための基準であるJGAPの認証も取得し、「安心して食べられるお米」を届ける米づくりを続けています。

「この地域では、お歳暮のお返しに餅をついてお米と一緒に送る風習があったの。ほかにも、お返しは買ったものでなくて、お米とか野菜とかでね。特に、うちのおばあちゃんがついた餅は、親戚や近所でも評判だったんですよ」

 こう話す淳子さんは、町で車屋を営む家庭に生まれ育ちました。高校時代は馬術部に所属し、南相馬に伝わる伝統の祭り「相馬野馬追」では、騎馬武者として参加した経験もあります。農家に嫁いでからは、見よう見真似で農作業を手伝いながら、少しずつ農家の仕事を覚えてきたといいます。

 穏やかな暮らしは、東日本大震災によって一変しました。自宅は周囲より少し高い場所にあったため、津波の被害は免れましたが、周辺の田んぼや畑、近所の家々は大きな被害を受けました。

 各家庭で長く続いてきた餅づくりも、途絶えてしまいそうになります。そんな中で、少しずつ近所や親戚から、淳子さんに「餅を作ってほしい」と声がかかるようになったといいます。

 義母が台所で餅を作っていた頃の姿を思い出しながら、淳子さんは餅づくりに向き合うようになりました。野菜と一緒にJA直売所へ卸していたところ、その様子が目に留まり、やがて直売所で扱う餅づくりも任されるようになります。少しずつ評判が広がり、気づけば餅づくりは、淳子さんにとって欠かせない仕事のひとつになっていきました。

記憶とアイデアで広がる、郷土餅

もともと淳子さんの家で作っていた切り餅は、白餅に豆餅、草餅、柿餅の4種類。どれも特別な日にだけ作るものではなく、日々の暮らしの延長線にある味です。

「柿餅は、勝手に“郷土餅”って呼んでいるんですけど、この辺りにしかないと思うんですよ。だって、ほかでは見たことがないですから」

刻んだ干し柿を練り込んだ「柿餅」は、ほんのりとした甘みと素朴な風味が特徴です。甘さは控えめながら、噛むほどに柿の旨みがにじみ出てくる。その加減が、餅の食感とちょうどよく重なります。

干し柿は、自家製。秋になると、皮をむいた柿を一つひとつ吊るし、自然の風に当てて干します。自宅の軒先には、ずらりと干し柿が並び、季節の移ろいを感じさせる風景が広がります。

4種類から始めた切り餅は、今や20種類以上。各家庭の「我が家の味」に応えるうちに、少しずつ味のバリエーションが広がっていきました。

「『うちは豆餅にピーナッツを入れるんだよ』とか、『うちは餅に生海苔を入れて作ってた』とか、『乾燥エビを入れて海老餅にする家もあったな』とか。そんな声やリクエストを聞くうちに、種類が増えちゃったんです」と淳子さん。

どの味も正解はなく、各家庭で受け継がれてきた思い出の味です。

そうした声に耳を傾けながら、えごま餅、しそ餅、海苔ピーナッツ餅、黒豆餅……と、少しずつ種類は増えていきました。

さらに、淳子さん自身のアイデアも加わります。

「甘めのおやつみたいなお餅もあったらいいでしょう。それで、さつまいもを使って、スイートポテト風のお餅にしたらどうかなって思ったんです」

それぞれの家庭に受け継がれてきた味と、つくり手の遊び心。その先に、ほかにはない、ごろくファームならではの「郷土の記憶を受け継ぐ餅」が生まれていきました。

独特の歯応えは、この土地ならではの優しさ

「昔はね、ガス台を並べて、こうやって一つひとつふかしてたんです」

そう話しながら、淳子さんは工房にたちます。 今はスチーマーを導入し、五段に重ねて一度に蒸せるようになりました。以前は半日かかっていた作業が、いまは3〜4時間ほどで終えられるようになったといいます。

とはいえ、作業はほとんど一人。蒸し上がるタイミングを見ながら、数分ずつずらして引き上げ、次の工程へと進めていきます。

 ごろくファームが切り餅に使っているもち米は、自家栽培の「こがねもち」という品種です。もち米の中でも粘りが強く、噛むほどに、米本来の甘みが広がります。

 さらに特徴的なのは、餅の中にぽつぽつと残るお米の粒です。

 「この辺りだけかもしれないけれど、昔から餅にはうるち米が入っているんです。餅って、どうしても喉に詰まりやすいでしょう。うるち米を加えることで、ほどよい歯ごたえが出て、小さなお子さんから高齢の方まで、喉に詰まらせにくくなる。そういう、昔ながらの工夫だったんだと思います」

 この味を求めて、今では全国から注文が届きます。

 「地元を離れた人がね、都会でも豆餅は売ってるけど、なんか違うって言うんです。『ばあちゃんの味じゃないから、送ってくれないか』って。それで送ったら、『ばあちゃんが作ってた餅と同じだ!』って喜んで電話をくださいました。たぶん、うるちが入ってるからなんじゃないかな。あの歯ごたえも含めて、懐かしい郷土の味なんです」

 そう話す淳子さんは、目元をほころばせます。

 ごろくファームの切り餅には、家々の台所で受け継がれてきた、この土地の暮らしが映し出されています。淳子さんは、その一つひとつに愛情を込めながら、郷土の味を未来へとつないでいます。

店舗名:ごろくファーム
住所:福島県南相馬市原町区金沢西山56
TEL: 0244-24-6601

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<お知らせ>

ごろくファームさんの商品は、ふくしま12市町村ファンサイトオンラインショップでお取り扱いしています。ぜひ、ご覧ください。

▽ふくしま12市町村ファンサイト オンラインショップは⇒こちら

取材・執筆:奥村サヤ 協力:ごろくファーム

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