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 浪江町津島地区を代表するローカルプレーヤーといえば石井農園の石井絹江さん。彼女の代名詞ともいうべき「かぼちゃ饅頭」は、浪江のおやつとして以前から地域で親しまれていました。震災で町を離れなければならなくなった時、お姑さんからの遺言で「作り方を教えるから、これを残していって欲しい」と懇願されます。その後、材料となるかぼちゃを自ら栽培し、商品化に向けて孤軍奮闘する石井さんにやってきた数々の出会いやドラマ。そこには知られざるエピソードがてんこ盛り。まんまるお月様のような形と見た目にも鮮やかな黄色いその姿は、明るい笑顔が似合う石井さんそのもの。また、えごま生産者としても精力的に産品化を進めています。そんな石井農園さんのこれまでの歩みを通して、浪江町津島の魅力を探ってみましょう。

|こんなに美味しいものを隠していちゃ、もったいない!

 長らく浪江町の役場職員として働いていた石井絹江さんが、ある日休憩時間に同僚からこっそり「これ、食べて」と机の下から手渡されたものは、大人のこぶし大ほどの黄色いお饅頭でした。一口頬張るとその何とも言えない優しい味わいに、思わずにっこり。あまりの美味しさに「こんな美味しいもの、どうして机の下に隠しておくの?もったいない!」といいながら、最後の一口まで同僚と楽しんだおやつタイム。当時のかぼちゃ饅頭は、今よりもかなり大きく、中身は小豆餡でした。お饅頭の皮に含まれるかぼちゃの程よい甘さに地域の人は癒されていたことでしょう。そして浪江では各家庭でかぼちゃ饅頭が作られていました。

やさしい甘さが老若男女問わず愛される浪江のおやつ「かぼちゃ饅頭」

 東日本大震災前から高冷地野菜として津島地区を中心に栽培されていた九重栗かぼちゃは、ホクホクとした食感と強い甘さが特長で、果皮は薄く、果肉が柔らかく様々な料理に活用できるためとても人気がある品種です。地域の特産品として栽培を進めていましたが、中には形が小さすぎたり、傷があったりで出荷できないものを「かぼちゃ饅頭」としたのがはじまりだそう。やがて、それは地域の味となり、定着していったのでした。

|全く売れなかった「かぼちゃ饅頭」

 震災で町を離れなければならなくなった時、お姑さんからの遺言を思い出します。日頃からあれこれ手作りすることが大好きだったお姑さんのオリジナルレシピを譲り受けていた絹江さんは、浪江のおやつとして「かぼちゃ饅頭」を商品化。イベントがあると聞けば出店申請をし、積極的に販売を進めました。ところがかぼちゃ饅頭は一向に売れません。たまたまあるイベントで隣り合わせになった柳津の老舗粟饅頭の専務(当時)さんが、声をかけてくれました。「もう少し小さい方が売れると思うよ。この箱に合うようなサイズで明日はつくってきてみなよ?」といって、箱を渡してくれました。さらに、別のイベントでは、これまた郡山の誰もが知る老舗和菓子屋の社長さんから「福島では、小豆餡は定番でたくさんあるから売れないと思うよ。かぼちゃ饅頭というんだから、中身もかぼちゃ餡にしてみたら」とアドバイスしてくれました。その通りにしたところ、劇的に売れるようになったのです。 

産品化として成功を収めた「かぼちゃ饅頭」もここまでくるには幾多の困難がありました

 材料となる九重栗かぼちゃは、畑を借りて栽培し、饅頭の生地も餡もすべて自分で手作りしていました。イベントがあれば、販売スタッフとしてあちこちへ出かけるため、文字通り寝る暇もない毎日でした。

 そんな目まぐるしい日々を送っていた頃、絹江さんは強力な仲間を得ます。飯館村で生まれた縁熟かぼちゃ「いいたて雪っ娘」の他、ナツハゼ加工品など飯舘村の特産品の普及を通じて地域活動しているニコニコ菅野農園の菅野クニさんです。なんと「いいたて雪っ娘」かぼちゃは、菅野クニさんのご主人で元農業高校教師・菅野元一さんが、30年近くかけて食味と保存性にこだわり改良選抜を行い育種したものでした。白い薄皮で艷やかで色濃い黄色の果肉のいいだて雪っ娘かぼちゃは、ほっくりした食感と、やさしく濃厚な甘さが特長でした。九重栗かぼちゃに比べやや水分が多いため、中の餡にピッタリ!

 かぼちゃの特長も知り尽くしており、さらに地域の産品を拡販すべく様々なイベントに出ていた菅野クニさんからは、イベント対応のノウハウも伝授いただき、浪江のおやつ「かぼちゃ饅頭」が広まっていったのでした。

左:ニコニコ菅野農園 菅野クニさん、中央:石井農園 石井絹江さん、右:ふくしま12市町村ファンサイト スタッフ 金子

|じいちゃん、ばあちゃんに食べさせたい

 地域の食文化を子ども達に継承する取り組みも行っている石井さん。今から約5年前のことです。地元の中学校で子ども達と一緒に「かぼちゃ饅頭」をつくり、試食する授業がありました。一人2個ずつの割り当てでした。「美味しい、美味しい」と子どもたちが自分でつくったかぼちゃ饅頭を食べている中、ある男の子は一切手を付けずにいました。石井さんは気になったので「かぼちゃ、嫌いだった?」と声をかけたところ、「ううん、一緒に住んでいるじいちゃんとばあちゃんに食べさせたいから、食べないんだ」というのです。さらに詳しく話を聞くと、ご両親は家計を支えるために浜の方に働きに行っていて、津島の祖父母の家に身を寄せているとのこと。そして、今日、学校でかぼちゃ饅頭の実習があることを告げると、「じいちゃんとばあちゃんも、食べてみたいなあ」と言ったそうです。そこで、この男の子は世話になっている祖父母にかぼちゃ饅頭を食べさせてあげたいと、我慢していたのでした。

 この話に、胸を打たれた石井さんは迷わず、こう言いました。「私の分を上げるから、食べな」と。そしたらニコっと満面の笑みを浮かべて、かぼちゃ饅頭を美味しそうに食べ始めました。その時の笑顔が今でも忘れられないと石井さんは言います。

外はふんわりもちもちの皮に中はしっとりのかぼちゃ餡は2種類のかぼちゃを使い分けている

|もう一つの地域の味、じゅうねん(えごま)への想い

石井農園さんでは「かぼちゃ饅頭」の他、もう一つの主力商品がえごま関連商品です。阿武隈山系の地域では古くから日常的に食されており、地元の人は一般的な白ごま・黒ごまよりも馴染み深い食材の一つです。震災後は避難先の福島市で、えごまの生産・加工も復活させました。えごまはシソ科の一種でこの地域では「じゅうねん」と呼ばれ親しまれています。「(えごまを)食べると十年長生きする」「十年保管していても蒔けば芽を出す」といった説からこうよばれているそうです。それだけじゅうねんの効能や生命力は昔から知られていました。

 えごまの実は軽く炒って擦りつぶし、味噌や砂糖を加えて和え物にしたり、餅に絡めたり、冷や汁のタレにして食べたりします。また、実を圧搾すると油が採れ、食用種として活用できます。じゅうねんから絞った油は「α-リノレン酸」というオメガ3系脂肪酸を豊富に含み、抗酸化作用があるようです。長年、えごまオイルを愛用している石井さんによると、シミの抑制効果も期待できるらしく、毎日ティースプーン1杯くらいを摂取するとよいとか。

日焼けこそしていますが、確かに石井さんのお肌はシミが少ない!!!

 えごま油はクセがないので、ドレッシングや冷や奴など一般的なオイルと同じように料理に使用できるほか、コーヒーやお味噌汁に入れてもOK。石井さんの一番のおすすめは、なんと「卵かけご飯」にえごま油をトッピングする食べ方。お通じも良くなり一石何鳥もの効果があるとか。

 さらに、石井農園さんのえごまは、EM栽培に取り組んでおり、農薬や化学肥料は一切使用していません。また、種まきから刈り取り、乾燥まですべて手作業とのこと。その分、手間も暇もかかりますが、それは、従来からの農法を守り、土地を守り、地域を守り、生命を守ることであり、それ自体を使命としているかのようでした。

 そして、えごまをもっと普段使いしていただけるよう、ラー油やえごまソルト、えごまキャラメルなど様々な加工品を開発。日本には2台しかないといわれているえごまの皮むき機械で加工したえごまパウダーなど、新たな活用ルートも模索中です。えごまの可能性を信じて、石井さんのチャレンジはまだまだ続いているようです。

ナッツのような味わいで、お菓子やドリンクに向いていそう

 

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石井農園 公式ホームページ

<お知らせ>

石井農園さんのかぼちゃ饅頭とえごま関連商品は、ふくしま12市町村ファンサイトオンラインショップでお取り扱いしています。ぜひ、ご覧ください。

▽ふくしま12市町村ファンサイト オンラインショップは⇒こちら

取材・執筆:A.takeuchi /協力:石井農園

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