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南相馬市原町区。住宅街の一角に2022年オープンしたレストラン「MADY(までい)」。ランチタイムとなれば人がひっきりなしの人気店です。”こんなお店が欲しかった”と地域の人に愛される秘訣、そして20代の若きご夫婦が営むレストランMADYに込められた想いとはー。
レストラン「MADY(までい)」は、地元産の旬の食材をふんだんに使い、丁寧に調理された料理と清潔感に溢れ、ゆったりとした雰囲気が人気があります。オープン当時から口コミで客足が絶えず、若い世代からシニア世代まで客層は幅広いです。店名は「丁寧」という意味の方言「までい」からきています。
店名は「丁寧」という意味の方言「までい」からきている
浪江町出身の吉川 未来(みき)さんと埼玉県出身の晃(ひかる)さんご夫婦が経営していますが、お二人とも最初から料理人や飲食店を目指していたわけではありませんでした。
未来さんは、中学の卒業式に被災し、家族でいわき市へ避難。いわき市内の高校を卒業した未来さんは進学のため埼玉へ、ご家族は南相馬市へ移住することになりました。
当時は教師を目指していたそうですが、塾講師のアルバイトをしてみて教師は自分には向いていないと感じ、飲食店でのアルバイトへ。するとこれがとても楽しい。自分がやりたいのはこっちかなと思い、大学卒業後はそのまま従業員になり、いずれは自営してみたいと思うようになりました。
大学の先輩後輩だったお二人、奥様・未来さんの地元で一緒にレストランさんを経営することに。
飲食店の経営となると、料理人としての技術を習得するために数年以上、長い場合は数十年と修業をして独立開業するのが一般的でしょう。しかし、未来さんは30歳までに開業したいと思っていましたので、「本格的な○○料理というよりは、身の丈にあった料理で、心地良い場所を提供できれば」ということでした。
そして、お付き合いしていた晃さんにレストラン経営の話を振ってみたところ、これがすんなりOK。モノづくりが好きでシステムエンジニアになった晃さんでしたが「飲食も広い意味ではモノづくり。技術を習得することが好きだし、プログラムの構築は料理とも似ている部分が多い。実家も自営業だったので、自分で経営することにも抵抗はなかったです」と語ります。
「プログラム構築も料理も似ている部分が多い」と語る元システムエンジニアのご主人、晃さん
となれば、話は早い。出店場所を巡り未来さんが情報収集すると、南相馬市は家賃も安いし、移住のための制度も整っていました。いずれは地元へ帰ろうとも思っていたため、独立開業を機にUターンを決定。システムエンジニアを辞め、料理修業に入っていた晃さんは開店2ヶ月前まで東京。様々な手続き関係はほぼ未来さんが担当しました。
二人が新天地として選んだのは南相馬市、移住のための制度も整っていた
浪江町で生まれ育ち、高校からはいわき市、そして進学後は関東で暮らしてきた未来さんにとって、全く知らない土地ではないものの南相馬市は新天地に等しかったことでしょう。さらに震災とコロナ禍で、飲食店をスタートさせるには必ずしもベストなタイミングではなかったかもしれません。
「この辺りはレストランが少なく、コース料理を食べてくれるお客様はいるのか、正直不安でした。オープンしてもお客様が来なかったらどうしようとは思ったけど、それもやってみないとわからない」と、ひたすら前を向いて歩いてきました。
しかし、その心配はどうやら杞憂に終わったようでした。「こういうお店が出来て良かった」と喜んでくださるお客様が多いといいます。しっかりと地域の方に受け入れてもらえたのでした。
また、嬉しいことにお誕生日会など記念日としてご利用してくださるお客様もいらっしゃるとのこと。未来さん曰く「私が小さい頃は、近くにレストランがなかったので、名前入りのお誕生日プレートでお祝いしてもらった経験はありません。デザートプレートを囲んで、記念写真をお撮りすることがあるのですが、そうした光景を見ていると、思い出の場所として、10年20年と、MADYが存在し続けられるようにしたい」と新たな目標ができました。
お二人がレストランを始めて大事にしていることの一つに、「見せかけの美味しさではなく、本当に美味しいものを提供する」というのがあります。SNSなどで美味しそうな画像がたくさん投稿されています。ところが実際に足を運んでみると、案外そうでもなかったという苦い体験をしたことがあるといいます。
「おいしい」というのはさまざまな要素が組み合わさって、感じるものであり、その3大要素が「料理」「接客」「空間」と未来さんは力説します。これらの1つでも欠けると途端に美味しくなくなってしまう。どんなに美味しい料理でも、美味しく食べていただくには、気持ちの良い接客が大事だし、空調などの空間への配慮も重要。ホール係の責任は重大と思っているとのことでした。
お料理を最大限に美味しくするには「接客」や「空間」も重要な要素
主に厨房に入っている晃さんは、料理を提供する際の温度など、その料理の状態がとても重要といいます。確かに、熱々が美味しいとされている料理がぬるかったり、逆に冷たいはずの料理がきっちり冷えていないとなると、味わいが変わってきてしまいます。見た目以上にこうした温度や状態に常に気を使っているとのことでした。
旬の地元野菜のバーニャカウダは、熱々のMADYオリジナルソースで!
「お二人の想い出の味、好きな料理はどんな料理ですか?」と質問すると、こんな言葉が返って来ました。
未来さんは「幼少の時に食べた『鮭のあら汁』かな。請戸川の近くに住んでいたので、鮭をよく食べていました。あとは『白子の味噌煮』が好きです。今はあまり売っていないですが、再現が可能なら自分でも作ってみたい。お酒はあまり強くはないですが、結構、酒の肴みたいなものが好きかも。塩辛とかも好きですね」とのことでした。
結局、好きな味は昔につながることを実感
一方、晃さんはというと「ミートソースのパスタです。うちの親がミートソースを作る時はレトルトとかではなく、いちから手作りするのですが、ひき肉だけでなく刻んだ椎茸などを入れます。それがとても美味しいなと思っていて。フランス料理で『デュクセルソース』というきのこのソースがあります。あれを見た時に同じだなあと思いました。あの美味しさは、きのこだったんだなと。そこで家庭の味を思い出しました」とのことでした。
飲食業はかつての自分や地域の人とつながれる
改めて「結局、ルーツは浪江にあったんだ。好きな味は昔につながる」ことをレストランをやってみて気づいたという未来さん。結局、紐解いてみると、自分が生まれ育った頃の「昔=かつて」に繋がっていたというお二人。飲食業をはじめて、昔の自分や地域の人々と繋がれることが多く、面白いし、やりがいがあると目をキラキラさせていました。
朗らかなお二人の雰囲気もMADYの隠し味?
お二人の取材を通じて印象深かったのは、自らの「おいしい」を形成しているのは幼少期の家庭の味であり、その時の体験や環境がとても影響しているということです。お話にあった「(請戸産鮭の)白子の味噌煮」もいつか食べてみたいですね。
【店舗情報】RESTAURANT MADY
lunch : 11:30 ~ 15:00 (L.O 13:30) dinner : 18:00 ~ 22:00 (L.O 21:00)
close : 毎週火曜日 / 第1・3水曜日
tel : 0244-41-9025 address : 福島県南相馬市原町区大町2-104
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取材・執筆:A.takeuchi /協力:RESTAURANT MADY